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東京家庭裁判所 昭和59年(家)2935号 審判 1985年7月29日

申立人 周立波

主文

申立人が次のとおり就籍することを許可する。

本籍     東京都品川区○○○×丁目×番

氏名     高野博明

出生年月日  昭和二二年五月一〇日

父母の氏名  不詳

父母との続柄 男

理由

第一申立の趣旨及び実情

申立人の父母は日本人であるが、終戦当時の食糧不足などのため申立人を養育することができず、申立人を中国人に預け、その後の行方が知れず、申立人は無籍となつている。

よつて、申立人が主文と同旨の就籍をすることの許可を求める。

第二当裁判所の判断

一  本件記録によれば、次の事実が認められる。

1  申立人は、昭和二二年、中国のハルピン市において、一女性によつて丁という年齢四〇歳位の独身の男性に預けられた。

2  申立人は、約半年間丁によつて養育されたが、丁が病弱であつて養育を継続することに困難を覚えたため、昭和二三年春ないし夏頃、丁の仕事上の知り合いである周学仁に引取られた。

周学仁は、その妻である宗玉蘭と共に申立人を養育したが、申立人に対しては同夫婦の実子であると告げながら、養育方法については同夫婦の他の実子とは区別していた。

宗玉蘭は、かねて日本人に対し被害感情をいだいており、申立人が日本人の子であると聞いていたことから、申立人に対し冷たく接することもあつた。

3  申立人は、昭和三〇年八月、ハルピン市内の小学校に入学し、昭和三六年七月、同校を卒業したが、在学中、他の生徒と喧嘩をした折などに、「小日本」、「日本鬼子」などといつてからかわれることがあつた。ただ、そういわれることについて、申立人は、その頃自分が日本人の子であるということを知らなかつたため、自分の身体的な特徴をいわれているものと思つていた。

4  周学仁は、いわゆる文化大革命当時、日本人孤児を養育しているということから、社会的に不利益な処遇を受けたことがあつた。

5  申立人は、昭和三六年八月、ハルピン市内の中学校に入学し、昭和三九年七月、同校を卒業したが、卒業の際作成する履歴書に出身や家族関係等を記載するについて、周学仁に申立人の生立ちを尋ねると、周学仁には、それまで周学仁夫婦の子であると信じていた申立人に対し、申立人が日本人父母の子であること、周学仁はそれまでのことを秘していたこと、日本人の子であつて周学仁の実子でない申立人を進学させることはできないことなどを明かした。

周学仁は、その後折をみて、申立人に対し、申立人を最初に預かつた丁から聞いた話の内容として、申立人の実父母は読み方は判らないが文字では「高野」と表記される姓の日本人であつて、申立人の父親は商売をしていたらしいが、申立人の母親が妊娠した後行方が判らなくなつてしまい、その後申立人の母親がハルピン市内の日本人難民収容所において申立人を出産し、生後五ヶ月位の申立人を丁に預けたこと、申立人の母親は間もなく大連から日本に帰国したとの風評があつたことなどを伝えると共に、周学仁自身が昭和二九年頃、宗玉蘭において申立人の養育に難色を示していたところから申立人を実父母に返そうとして申立人の実父母の所在についての手掛を捜し求めたことがあつたことを語つた。

6  申立人は、昭和四八年頃から肉親捜しを考えるようになり、昭和五三年頃から肉親捜しのための日本への渡航の準備を進め、昭和五六年六月二三日来日して以来肉親捜しを続けている。

7  中華人民共和国広西壮族自治区南寧市公証処において、昭和五五年一一月一四日、申立人が日本人の親族であることを内容とする親族関係証明書を発行し、あるいは、中国政府において、申立人が肉親を捜す目的のために日本への渡航を許可し、あるいは、中国政府において、昭和五九年九月一〇日、申立人が外国国籍を取得することを条件に中国国籍を離脱することを認め後記(8)の手続により中国国籍を喪失させるなど、親族関係証明書の具体的親族関係の記載については真実性を欠くにしろ、少なくとも申立人が日本人父母の血統を有するが如き処遇をしている。

8  なお、周学仁は、時期が定かではないが、申立人を戸口簿に登載する手続をとり、その結果、申立人は中国国籍を取得した。

しかしながら、申立人は、昭和五九年九月一〇日、中華人民共和国駐日本国大使館において中国国籍の取消の申請手続をし、その後、同大使館にパスポート(護照)を返還し、現在無国籍となつている。

二  以上の事実によると、申立人の法律上の父は不明であるが、法律上の母(生母)は日本人であり、申立人が旧国籍法(明治三二年法律第六六号)三条によつて出生と共に日本国籍を取得したことになるところ、申立人がかつて中国国籍を取得したことがあるのは、周学仁が申立人を中国人として養育してきたことに基くものであることが窺え、その他に申立人が自己の意思によつて取得したことを認めるべき資料も存しないから、申立人は現に日本国籍を有するものということができ、現在その本籍が判明しないから、ひとまず申立人につき次のとおりの就籍を許可するのが相当である。

1  申立人の本籍は、申立人の希望により、東京都品川区○○○×丁目×番とする。

2  氏名は、申立人の希望により、申立人が現に使用しているところの高野博明とする。

3  出生年月日は、申立人が周学仁に養育されて以来生年月日として通用してきた昭和二二年五月一〇日とする。

4  父母の氏名は、明らかでないからいずれも不詳とする。

5  父母との続柄は、申立人に法律上の父があつたか否か不明であるので、男とする。

三  よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 草深重明)

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